どうも、トイレで気張ってたり、風呂に浸かってたりするときに物語のネタがよく思い浮かぶsolaです。
物語の種みたいなものっていつやってくるか分かりません。基本的には、天から何か降りてくるのを待っている状態の私ですが、時には物語の発想法を試したりもします。
今回はそんな発想法から一つ紹介してみます。テーマは「お約束の破壊」です。
■展開のお約束を破壊してみる
展開というのは、物語の筋のことです。例えば「異世界に飛ばされた主人公が、そこで出会ったヒロインや仲間たちと協力して異世界を救う」とか「ゲームの世界に入りこんじゃって出られない」とか「洋館、孤島など閉ざされた場所で次々に人が殺されちゃう」とか「朝、通学路の途中でぶつかった美少女が実は転校生であーだこーだ」とか、そんな感じです。
漫画、アニメ、ライトノベル、ノベルゲームなんかにはありがちな展開ですね。こういったよくある展開ってお約束にあふれてます。
例えば、異世界に飛ばされた主人公はたいてい普通の高校生です。なのに大人たちを巧みな話術で論破したり高度な戦闘スキル持っていたりハーレムを築いた上でお姫様と結ばれたりします。
孤島や洋館に人が集められると、なぜか唯一の交通路が封鎖されます。なぜか皆一癖あり怪しいです。探偵が必ずいます。人智を超えたトリックが目白押しです。
通学路の途中でぶつかった美少女転校生はたいていツンデレです。あと主人公はたいてい忘れていますが、幼少期にヒロインと出会っていて結婚の約束をしています。
「展開のお約束」のメリットとしては、いちいち説明しなくてもその世界にスッと入り込むことができること、読者が安心して(落ち着いて)物語を読み進められることなどが挙げられます。歌舞伎や落語なんかはお約束がたくさんあります。お約束があるからこそ、一体感・共有感が生まれるわけです。
デメリットとしては、「またかよ!」「◯◯のパクリかよ!」みたいな感じで最初から飽きられてしまうことですが、これは作り手の腕の見せどころでしょう。そもそも物語の展開なんて、帰納すれば既存の「物語の類型」にだいたい当てはまりますしね。
本題です。この「展開のお約束」を破壊することで、人を惹きつけるドラマが生まれることがあります。
以下、展開のお約束について、二つほどアニメのネタバレをしますので、まだ観ていない方は飛ばしてください。共感してもらうためにも、有名どころを挙げます。
一つ目は『魔法少女まどか☆マギカ』です。
アニメファンであれば、タイトルをパッと見ただけで「ああ、これは『魔法少女モノ』」だなと思う人が多かったはずです。魔法少女モノの展開のお約束は、「普通の女の子がある日、見たこともない可愛らしいしゃべる生き物と遭遇し、たいてい同時に超常的な敵の攻撃を受けます。で、その生き物に魔法の力を授けられ魔法少女に変身(決めポーズとともにひらひらした衣装に変化)し、ピンチを切り抜けます。そして同じような仲間の魔法使いとともに悪を倒す日々がはじまる」みたいな感じです。もちろん、全ての魔法少女モノがこのお約束を踏襲するわけではありません。とにかく、そのお約束を元にしていろいろなバリエーションが存在するわけです。
『魔法少女まどか☆マギカ』は、魔法少女モノのお約束を破壊することで話題をさらいました。「ある主要キャラが早期かつ凄絶に死亡」「魔法の力を授ける生き物こそが敵だった」「主人公がなかなか魔法少女にならない」「魔法少女として戦うと最終的に魔女(敵)になる」「戦闘手段が魔法でなく兵器類」……。もちろん、お約束を破ったことだけで話題になったわけではありません。脚本家によるセリフ、描写、ストーリー展開の妙や、可愛らしいキャラデザとPV(あくまで普通の魔法少女モノに見せていた)で巧妙に騙したことも大きいでしょう。しかし、魔法少女モノのお約束(魔法少女モノ特有のお約束でないものもありますが)を次々に破壊することで、視聴者に”驚き”を与え「これは一味違うぞ!」と思わせたことが成功の大きな一因と言えます。
二つ目は『がっこうぐらし!』です。
これは「日常系アニメ」と呼ばれる展開のお約束を破壊することで視聴者を惹きつけました。日常系とは、「かわいい女の子たち」が「学校を舞台」にして「何気ない楽しい日常」を送るまったりとしたコメディを指します。基本的にストーリー展開に大きな落差はありません。昨今のキャラクター重視の風潮や、のんびりと気を抜いて観ることができることもあり、大きな人気を誇るアニメジャンルです。
『がっこうぐらし!』はこのお約束を破壊しました。
学校での楽しい日常は、現実にたえられない主人公の妄想だったのです。実際は、ゾンビによって包囲されている状態での女の子たちのサバイバルモノでした。「日常系アニメ」の登場人物たちは、リアル世界と違って年齢より大分幼く描写されるのが常なのですが、それについても主人公が現実逃避のために幼児退行しているという解を与えているのが素晴らしいです。現在(2015年8月)放映中ですが、かなりの視聴者に衝撃を与えているようです。
他にも、ロボットモノやスポ根モノの名作にも存在します。またこういったお約束展開の破壊は文章で伝えやすいため、小説にも多いです。ネタバレばかりしてもしょうがないのでこの辺りで止めておきます。
とにかく、視聴者や読者が思い浮かべる「展開のお約束」を破壊し、予想を裏切る手法はかなり効果が高いと思われます。ただし、お約束を破壊すれば絶対にウケるわけではありません。逆に、見限られてしまったり、対して効果がないこともあります。
■キャラクター設定のお約束を破壊してみる
キャラクター設定には、いわゆるテンプレと呼ばれるものがあります。
ツンデレ、クール。料理下手なヒロイン。勉強できないけど真っ直ぐでへこたれないツンツン髪。言葉足らずですぐに手が出るので勘違いされているけれど実は優しくて、ヒロインだけは理解してくれている不良。お嬢様はたいてい高飛車ですが意外に純粋なところがあって主人公にツッコまれて顔真っ赤にします。頭脳キャラはメガネをしていてクイってしたり光ったりします。出世街道を外れた40代の刑事はやる気あふれる新人刑事と組まされます。……ちょっと違うものもありますが、とにかくキャラクター設定にはこういったお約束が存在します。
キャラクター設定のお約束のメリット、デメリットは展開のお約束とだいたい同じかと思います。他には、テンプレに沿っていればキャラクターを覚えやすいこともありそうです。ただ、当然なんですが、キャラクター設定はストーリーに大きく左右されます(現代的な物語はキャラクター重視ですが、基本的にはストーリーが主になります)し、通常、復数のテンプレを混ぜます。実際、まったく同じ設定のキャラを思い浮かべようとしてもなかなか出てこないのではないでしょうか。例えば同じツンデレキャラでも、メイン設定がツンデレなだけで、他にさまざまな副設定が付随しているはずです。
ともあれ、この「キャラクター設定のお約束」の破壊でも新たな発想を得ることができます。少年誌的な超ポジティブシンキング主人公が、実は当初から深い闇を抱えていてある事件をキッカケにそれが露呈するとか。頭脳キャラのメガネが光ったのに実は脳筋でしたとか。使える・使えないは置いておいて、こういった発想を試みることが物語に驚きを与える一助となりえます。
■ルール設定のお約束を破壊してみる
物語にはたいていルールが存在します。例えば「リアル世界と同じ設定の探偵モノ・推理モノ」については「探偵自身(語り手)が犯人になってはいけない」「超能力や魔法(舞台に存在し得ないもの)がトリックや解決に使われてはいけない」「一度も登場していない人物が犯人ではいけない」というルールが暗黙的に存在していたりします。これらは物語中では語られることのない、ジャンルとしての絶対的ルールとも言えます。
さらに、少し観点が異なりますが、「山奥にある古い社には近づいていけない」とか「火、風、水、土の四元素からなる精霊魔法の行使の方法」とか「超能力者をレベルごとにわけて管理している」とか、創作者自身がその物語に向けて生み出したルールがあります。
そして、その創作者のルールが中心となる物語があります。「新世界より」、「デスノート」、「バトル・ロワイアル」、「ライアーゲーム」などです。どれも、主催者や神、統治者、それに準じる者によって細かく規定されたルールに則って物語が進行していきます。
ルールに沿うというのは物語を伝える上でかなり重要です。たとえば、リアルな人間同士が競う本格ボクシング漫画の世界に、実は異星人の戦闘民族で気合を入れると髪が逆だって地球を破壊できちゃう戦闘狂が登場するわけにはいきません(してもいいですが、ただのギャグ漫画になります。それはそれで面白くなるかも?)。それは、絶対に守らなければならないルールなわけです。
ここでいう「ル-ル設定のお約束」の破壊とは、そういった最低限遵守すべきルールとは別と考えてください。
わかり易い例を挙げると、「山奥にある古い社には近づいていけない」と物語の初期に村長に言いつけられたからといって、「はい、わかりました」と社に近寄らずに家に帰ってしまってはそもそもストーリー自体がはじまりません。社に近づいてこそ、ドラマが生まれるのです。
例えば、登場人物たちが「火、風、水、土の四元素からなる精霊魔法」で戦うストーリーだとします。主人公はいまいち精霊魔法が苦手でバカにされていましたが、実は四元素を凌駕する光魔法を行使する存在だったとか。例えば、管理者によってレベルごとに超能力者をわけていた都市で、管理できないほど強大な能力者が生まれ世界を滅ぼそうとする。それを止められるのはレベル分けのルール上無能力者とされていたレベル0の主人公だったとか。
ようは創作者自身が作った世界観上のルールを絶対とせず、それを超える存在を作ることでドラマをつくり出すわけです。
特に、上で挙げた「新世界より」や「バトル・ロワイアル」のようにルールが細かく規定された物語では、イレギュラーな存在がルールに逆らうことで物語を動かすことが常なわけです。
ちなみに、探偵モノで探偵(語り手)自身が犯人であることは、昔からタブーにされていますが、実際のところ、守っていない探偵小説も結構あります。
このルールのお約束の破壊については、後から考えてみれば当たり前に使う手法なんですが、創作初期の段階にて世界観の構築中などに、決めたルールを破壊したらどうなるか、なんてところに注目してみると、面白い発想が思いつくかもしれません。
さて、今回は、「展開」、「キャラクター設定」、「ルール」のお約束を破壊するというネタの発想法について語りましたが、お約束の破壊はこれだけに限りません。いろいろと試してみてください。
最後に、お約束の破壊は万能ではありません。絶対に面白いドラマが思い浮かぶわけではないことに注意してください。お約束を順守して展開する物語にも傑作はたくさんあります。むしろ、だからこそ「物語のお約束」と認識されているとも言えます。
それでは。
<物語を伝えるための日本語基礎技術 : UnityEditorの便利機能まとめ>
通りすがり
> 創作初期の段階にて世界観の構築中などに、決めたルールを破壊したらどうなるか
これなんかはフィリップ・K・ディックとかが、初期の作品でやっている気がします。まあ、かなりぶっ飛んだ人なので意図的なのかどうかは不明ですが。