物語を伝えるための日本語基礎技術

どうも、solaです。

「物語」と一言でいってもコンテンツの種類によってアプローチは異なります。例えば、小説は文字のみの物語です(挿絵は除外)。漫画は文字にプラスして、映像を用いた物語です。ドラマや映画にはさらに音楽が、ゲームにはゲーム性が加わります。

しかし、どんなコンテンツにおいても物語の基本となるのは「文章」です。小説は当然として、漫画のプロット、ドラマや映画の脚本、ゲームのゲームシナリオ、どれも文章がメインなのです。

というわけで,今回は物語の基本となる「文章」つまり日本語の作文技術について語ってみます。

■文体は作家によって千差万別

美文だとか悪文だとか、どの作家が文章力があるだとか、そういう話題って尽きませんよね。文章の書き方=文体は作家によって様々です。

ちょいと小説家を例にしてみます。

美文の有名どころとしては三島由紀夫がよくあがります。代表作を数冊程度読んだ程度の自分が語るのもおこがましいのですが、確かに美しい文体です。どことなく耽美的な表現だと思っていたら、ロマン主義あたりのフランス文学に影響を受けていたようです。詩的でかつ無駄のないスリムな文体です。

それから、太宰治。小中学生の読書感想文にもよく登場しますね。私もその頃に読み漁りました。同じ時代の作家の中で、特に読みやすい文体です。語りかけるような、口語調の文章が特徴です。

オノマトペや造語を散りばめた幻想的な文体が特徴の宮沢賢治。

東野圭吾氏といえば心理描写、風景描写、比喩表現などはほぼなく、とにかくストーリーを簡潔に伝える文体です。そのため、普段「小説」を読まない方にも受け入れやすいのかもしれません。

春樹節と呼ばれるしゃれた文体の村上春樹氏。人物描写や比喩表現がかなり特徴的でコミカルな伊坂幸太郎氏。年頃の女性の心の動きを美しく細かく描写する恩田陸氏。

伝奇物において、京極夏彦氏、奈須きのこ氏は誰が見ても一発で分かるほどに特徴的な文体です。

……長くなりそうなのでここまでにしておきます。

とにかく「小説」における文章の書き方=文体は、作家によって様々なわけです。そうして、美文とか悪文とか、文章力があるとかないとかいうのは、読者側の好みという側面もあります。とはいえ、作家の文体をひたすら真似ただけだと劣化したように感じてしまうこともあったりするので、やはりそこにプロの作家としての力量があるのでしょう。

■文章の書き方を学ぶことの意義

小説における文体の良し悪しは好みでしかないとはいえ、限度というものがあります。私自身の文章の巧拙は置いておくとして、例えばインターネット上に公開されている小説(第三者はもちろん、自身ですら推敲していないと思われるもの)の中には、酷いものになると何を伝えようとしているのか全く読み取れないものもあります。いくら自由とはいえ、最低限の「文章の書き方」は学ぶべきでしょう。自分なりの文体は基礎を学んでから身につけるとしましょう。その辺りは、絵や作曲など他の創作修行と変わらないと思います。

これは私が編集者として働いていた時に、研修で使った本の一つです(実際は旧版でした)。

日本語による文章の書き方を論理的に説明している数少ない本です。主にジャーナリスト、ライター向けの内容になっているのですが、物語にも活用できます。

「いや、自分が書きたいのは素晴らしい比喩表現と細やかな心理描写にあふれる独特な物語であって、簡潔で論理的な文章ではない!」という方もいるかもしれませんが、小説(物語)の基本は「物語の展開をわかりやすく簡潔に伝える」ことです。

■なぜ日本語を使った作文は難しいのか

日本語は、基本的に語順が自由で、助詞によって主語や目的語が決定します。さらに、修飾語(形容詞や副詞)についても自由に組み込むことができます。

日本語の自由さのせいで、伝わりにくい文章ができあがってしまいやすいのです。

今回は「語順」「助詞」「修飾語」についてさらっと解説してみます。

・日本語の語順

1.「私はあなたを愛しています。」

2.「あなたを私は愛しています。」

1と2、語順が異なりますが、どちらも意味自体は通じますよね(ちなみに述語=動詞は最後に来ます)。では、どちらの語順が読みやすい文章ですか?

ほとんどの人が、1の語順を選ぶのではないでしょうか。

英語などのヨーロッパ系言語・中国語の語順はSVO(主語→動詞→目的語)型です(”I love you.”のように)。それに対し、日本語はSOV(主語→目的語→動詞)型です。

つまり、日本語の語順は自由ではありますが、基本的な文型においては「1」のようなSOV型の方が伝わりやすいのです。

ちなみに、「愛しているんだよ! 君を!! この私が!!」みたいなドラマチックな語順はよくありますが、こういう表現(強調)による語順の変化は英語(SVO型)にも存在します。

・助詞

私は言語学者ではないので講義で習った程度のことしか知りませんが、日本語のようなSOV型言語では助詞が重要になってきます。助詞によってそれが主語なのか目的語なのかなどが決定されるのです。

1.「私本を読みます。」

2.「私本を読みます。」

「が」と「は」はどちらも、主語に使用する助詞です。しかし、1と2はニュアンスが全く違いますよね。このくらい短い文章だと使い分けも簡単ですが、長い文章になると助詞がぶれてしまうことが多々ありますので、助詞については常に気を使う必要があります

「私は彼アイスを食べます。」

さて、この文章にある助詞「と」ですが、通常ならば”with”つまり「彼と”一緒”にアイスを食べる」という風に読み取ると思います。しかし、万が一”and”という意味で読み取ると、「彼とアイスの二つを私が食べる」というカニバリズム発言になってしまうわけです。この例ではそう読み取る人はほとんどいないと思いますが、実際には助詞のせいで紛らわしい文章になることがよくあります。その場合、助詞を置き換える作業が必要です。この例では、「私は彼と一緒にアイスを食べます。」とするわけです。

助詞の置き換えにはもうひとつあります。

「受験ため勉強スケジュールをたてる。」

この文章、意味は通じても、なんだか「の」が連続していて読みにくく野暮ったい印象ですよね。

こんなときは、「受験勉強のためにスケジュールをたてる。」もしくは「受験勉強のスケジュールをたてる。」という風に同じ助詞を置き換えたり減らすように文章を書き換えます

・修飾語

「壊された我が家

さて、この文章において、壊されたのは「我が家」と「鍋」どちらでしょうか。語順の自由さが仇となってどちらも修飾しているように読み取れてしまいます。こんなときは語順を変えて、「我が家の壊された鍋」とすると、修飾語「壊された」が修飾するものが「鍋」のみとなります

日本語は修飾語を好きなように挟むことができるので、何も考えずに修飾語をつけると上記のように読み取り方によって意味の違う文章になりがちです。

ちなみに、修飾語の揺れについては「修飾する言葉にできるだけ近づける」ことを心がけると解決することが多いです。上記の例も、「壊された」を「鍋」に近づける(直前に置く)ことで解決しています。

 

もちろん、日本語の作文技法はこれだけには留まりませんが、こんな風にしっかりと基礎を学んでいくと伝わりやすい文章を書くことができるようになります。

日本人であれば、日本語を書いて読めてしまうということが当たり前(基本的に)であり、それが逆に日本語の作文技術を学ぶ機会を減らしているのかもしれません。絵や音楽ならば基礎から学ぶことが当たり前なんですけどね。

というわけで今回は、「自由に記載できる小説(またはゲームシナリオ)であっても、基礎的な日本語の作文技術は学んでおいて損はないですよ」というお話でした。

それでは。
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